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2012-01-04(Wed)

ウェイド・アリソン【オックスフォード大学名誉教授】 放射線の事実に向き合う ― 本当にそれほど危険なのか?

【要旨】(編集部作成) 放射線の基準は、市民の不安を避けるためにかなり厳格なものとなってきた。国際放射線防護委員会(ICRP)は、どんな被曝でも「合理的に達成可能な限り低い(ALARA:As Low As Reasonably Achievable)」レベルであることを守らなければならないという規制を勧告している。この基準を採用する科学的な根拠はない。福島での調査では住民の精神的ストレスが高まっていた。ALARAに基づく放射線の防護基準は見直されるべきである。

科学的知見ではなく、政治的に決まった放射線の国際基準

ある特定の場所、特定の時間において、再生可能な資源はエネルギー供給に重要な貢献を果たす事ができる。しかし、それらは完全なエネルギー問題の答えとしては高価であり、信頼性のあるものとはいえない。原子力発電は大規模に石油に代替できる唯一の有効なエネルギー源であるが、放射線への懸念により、多くの人々にとっては受け入れがたいものである。

福島の原子力事故から8ヶ月の間、原子力問題に関する報道が数多く出ている。しかし放射線による死者は出ていない。これは大変興味深いことだ。通常は、これほどメディアの注目を集め続けるような大事故であれば、何10、何100どころか何1000人もの死者が出ているものだ。福島では3基の原子炉が自壊した。

この規模だとウィンズケール(1957年、英)、スリーマイル島(1979年、米)、そしてチェルノブイリ(1986年、ウクライナ)での1基のみの原子炉事故よりも状況は悪い。しかし、チェルノブイリを除くいずれの場所でも死者はでていない。チェルノブイリでの死亡者数は、現在では50人未満であったと確定されている[1]。私たちは何か間違いを犯したのだろうか。放射線は一般に考えられているよりも害が少ないのだろうか。

放射線は途方もなく危険であるという視点は、科学よりも歴史に基づいている。冷戦時代に、放射線への恐怖は重要かつ効果的で世界に通用する兵器のようなものであり、各国の国内においても極端な反応を起こすことは避けられないものだった。当時、人々が自由な意見表明を認められていた国では、多くの人々が核兵器と放射線から解き放たれた生活を求めてデモ行進し、投票した。

こうした圧力に応え、国際放射線防護委員会(ICRP)は、今日でもなお[2]、どんな被曝であっても「合理的に達成可能な限り低い(ALARA:As Low As Reasonably Achievable)」レベルであることを守らなければならないという国際的な放射能規制を勧告している。それは岩石や空間、人の体内にある放射能といった自然界にある放射線を基準としている。「確実に安全」と思われる比較的少量の増加分の放射線のみを基準で安全と認めている。そしてそれは社会に安全と再確証を与えるものだった。しかし、その基準は「それ以上の放射線量であったら安全ではない」という意味ではないのだ。

新技術は導入に際して過剰なリスク配慮が行われる

このような ALARA レベルは立法や原子力産業の現場ですぐに重要な基準になった。しかし実際には、人々の健康を侵す危険のある水準よりも何十倍も低いままである。さらに放射線に対する恐れを和らげるために設定されたにもかかわらず、実際にはそれに失敗している。社会が情報のないままメディアに煽られ、不安を募らせたままである。そして放射能防護規制への政治的圧力はさらに制限的な方向へ向かっている。

新しい技術がもたらされる時にリスクはきちんと理解されず、監視や管理の体制は不十分だ。だから、安全に対する事前の予防策を考えるのは理屈にかなっている。例えば「蒸気自動車」が初めて登場した時、はじめは蒸気だったが後に内燃機関によって運転されるようになった。市民からの圧力を受け、時速2~4マイル[時速3~6キロ]で走らなくてはならないという安全法が1865年の赤旗法(英国)として成立した。

現代の文明化において幸運だったのは、偶然にも放射線が発見されたのと同じ年の1896年には、このような交通規制は20倍またはそれ以上に緩やかになったことである。はじめ人々は、初期段階の技術水準の交通手段は受け入れられない(また、馬を驚かすだけだろう)と考えたが、次第に技術が改善されて事故率は低下した。人類はリスクを受け入れ利益を得ることを受けいれたのだ。

交通では今でも、人間のすぐそばを通る乗用車など、極端に危険なことがすぐそこにある。しかし人々はこういった危険を日常の中で避けている。19世紀に普及していた規制は今日では考え難いものであり、例えば子供に対して道路による移動を禁じるといったような、特別な規制を提案する人は現代にはいないだろう。

利益に対するリスクを考え、技術に向き合うべき

放射線の安全性と原子力技術の扱いを、他の技術に比べて特別にする理由などない。経験に照らし合わせて、利益に対するリスクのバランスを取りながら扱うべき問題だが、不幸なことに現実はそのようにはなっていない。1951年、安全レベルは1週間あたり3mSv(1ヶ月あたり12mSv)に設定されていた[3]。

市民がこのレベルの放射線で安全にすごせる記録があったにもかかわらず、1951年以降には一般市民を対象に推奨される基準の最高値が、 ALARA の名のもとに150倍低く「減らされて」設定されたのだ。これは賢明だったのだろうか。臨床医学において、個人の健康に効果のある放射線の被曝実験では、安全レベルは1週当たり3mSvの8倍「増やして」いいかもしれないと提案されている[4]。

偶然だが、放射線をめぐる状況は、交通速度規制の緩和化と、さほど異なるものではない。興味深いことだが放射能を科学的に解明してノーベル賞を受賞したキューリー夫妻のうち、妻マリー・キュリーはその研究活動において莫大な量の放射線を浴びたにもかかわらず1934年まで生存した(享年66歳)。一方で夫であるピエール・キュリーは1906年パリで馬に引きずられるという交通事故で亡くなった。最も有名な科学者たちとはいえ、このケースから、放射線の危険性について結論づけるのは科学的ではないことだが。

福島、そして世界で過剰な規制によるコストの再考を

医療用の画像診断に用いられる放射線は、患者に対し内部または外部の放射線源から照射することで、1回当たり5~10mSvの被曝量である。日本政府が最近定めた[5]放射能セシウムの基準値まで汚染された肉を食べて、この放射線量と同じ量だけ被曝するには、およそ4ヶ月の間に1トンの肉を食べなくてはならないのだ。この規制は不合理だ。福島における避難方針のよりどころとなった基準同様、これは ALARA を由来としている。

その方針は1年に2回全身の CT スキャンを受けたのと同量のレベルを基準としている。放射線治療中の患者は、悪性の腫瘍をなくすために、10~20cm四方の組織や臓器に「1000回」、またはそれ以上の CT スキャンを受けるのと同量の被曝をしている[4、6]。そのような治療において放射線を浴びた組織および臓器は、通常機能を失うことはないし、このような放射線治療に感謝する友人や親類を持つ人がほとんどだろう。この事実から考えても、この基準以下の放射線は無害であると確実に言えるだろう。

チェルノブイリでは、同様の食物および避難方針が、社会的および心理的に深刻なストレスをもたらし、放射線そのものよりも広範囲な健康被害をもたらしてしまった[1、4]。この不幸な過ちが、福島でも繰り返されている。厳然な統計はまだ入手できないものの、最近福島を訪れた際、私は地元自治体の首長や医師、教師などから、放射線に対する恐怖や現在の政策が、絶望を生み、ビジネスを崩壊させ、自殺の原因となり、またコミュニティを崩壊させ、高齢者の間に生きる目標を失わせているかということの、説明を受けた。

現在の厳しい放射線の「安全」基準は、科学的な視点からは支持することができないものだ。これは一般市民の漠然とした懸念に応えて生まれたものだが、これを、著しい健康に対する影響なく、おそらく1000倍程度まで緩和しても問題はないであろう[4]。

ALARA の方針をまったく採用しないことによってもたらされる世界規模でみた経済的利益は大きなものとなる。一方で原子力発電の安定化に向けて厳格に制御するためのコストの支出は続くべきであるが、原発という選択肢について支払われる安全コストの大部分は大幅に減るだろう。世界中のエネルギー消費者が、ALARA の不当な追加コスト(廃棄物の処理コストも含む)を喜んで負担するとは考え難い。この観点からみると ALARA を基準とする規制は明らかに再考されるべきである。原子力の「赤旗法」は撤廃されるべきだ。

脚注のリンク:

[1]IAEA Report (2006)and UN Report (2011)

[2]ICRP Report 103 (2007)

[3]reference [2] p. 35

[4]Radiation and Reason (2009)

[5]Royal College of Radiologists (2006)

[6]Japanese Govt. Regulation, 27 July 2011

(Global Energy Policy Research)




メディアの大騒ぎが作り出す原発の「危険神話」過剰報道が風評被害と2次災害を拡大する

 ちょっと宣伝めいて恐縮だが、今年から私の経営するアゴラ研究所ではGEPR(グローバル・エネルギー・ポリシー・リサーチ)というウェブサイトでエネルギー問題についての世界の研究を紹介することになった。

 その第1号の論文でオックスフォード大学のウェイド・アリソン名誉教授は次のように書いている。

 福島の原子力事故から8カ月の間、原子力問題に関する報道が数多く出ている。しかし放射線による死者は出ていない。これは大変興味深いことだ。通常は、これほどメディアの注目を集め続けるような大事故であれば、何十、何百どころか何千人もの死者が出ているものだ。[中略] 私たちは何か間違いを犯したのだろうか。

科学より主婦の実感を信じる朝日新聞

 たぶん誰かが勘違いしているのだろう。放射能による死者は1人も出ていないのに、その報道は2万人近い死者・行方不明を出した東日本大震災に劣らず大きい。

 特に過激な報道を続けているのは、朝日新聞である。10月から続いている「プロメテウスの罠」という連載は、毎日こんな記事が続く。

 東京都町田市の主婦、有馬理恵(39)のケース。6歳になる男の子が原発事故後、様子がおかしい。4カ月の間に鼻血が10回以上出た。30分近くも止まらず、シーツが真っ赤になった。近くの医師は「ただの鼻血です」と薬をくれた。 [中略]

 しかし、子どもにこんなことが起きるのは初めてのことだ。気持ちはすっきりしなかった。心配になって7月、知人から聞いてさいたま市の医師の肥田舜太郎(94)に電話した。肥田とは、JR北浦和駅近くの喫茶店で会った。

 「お母さん、落ち着いて」

 席に着くと、まずそういわれた。肥田は、広島原爆でも同じような症状が起きていたことを話した。放射能の影響あったのなら、これからは放射能の対策をとればいい。有馬はそう考え、やっと落ち着いた。



 原発から約250キロ離れた町田市で子供が鼻血を出した原因が放射能であることは、現代の科学では考えられない。事実この記事も、後の方で申し訳のように「こうした症状が原発事故と関係があるかどうかは不明だ」と書いているが、全体としては「本当は関係があるのだが証明できない」と匂わせる印象操作だ。

 連日こういう主婦の非科学的な行動を紙面で伝える朝日新聞は「政府の線量基準は原子力村の御用学者の決めたものだから信用できない」とでも言いたいのだろうか。

インタビューを捏造するNHK

 NHKは原発事故報道では冷静な報道を行なったが、12月28日に放送された「追跡! 真相ファイル 低線量被ばく・揺らぐ国際基準」という番組は、事実無根の捏造番組である。

 この番組でICRP(国際放射線防護委員会)のクレメンス科学事務局長は、NHKのインタビューに答えて「DDREF(線量・線量率効果係数)の数値についてだけでなく概念そのものについて、これが本当に今でも有効なのかどうかを検討している」と答えているのだが、字幕は「低線量のリスクを半分にしていることが本当に妥当なのか議論している」となっている。

 これは誤訳ではなく捏造である。ICRPは1990年の60号勧告で、DDREFとして「2」を採用した(健康被害の推定を線量に比例する値の2分の1にした)だけである。それをまるでICRPが健康被害のデータを改竄したかのように表現しているのは、意図的な放射能デマである。

 特にクレメンス氏が語っていないことを字幕に出したのは、かつてデータ捏造問題で打ち切りとなった番組「発掘! あるある大事典」と同じ悪質な捏造だ。

 NHKの番組はICRPの17人の委員のうち、13人が原子力産業の出身者であることを紹介して「原子力村」の政治的圧力を示唆する。これによってICRP勧告が緩和されたのなら面白い話だが、残念ながら事実は逆なのだ。

 1990年に出されたICRP60号勧告では、職業被曝は年50ミリシーベルト(Sv)から5年100ミリSvに、公衆被曝は年5ミリSvから1ミリSvに規制強化されたのである。まさか原子力産業が規制強化を求めたわけではあるまい。

ニセ科学者を輸入した自由報道協会

 マスコミがデマを流すのに対してネットメディアがチェック機能を果たすことが期待されたが、起こったことは逆だった。災害報道について最小限度の訓練も受けていない自称ジャーナリストが、未確認の放射能デマを流し続けた。その最大の発信源が「自由報道協会」(上杉隆代表)である。

 特に問題なのは、2011年7月にクリス・バズビーなる人物を日本に呼んで記者会見させたことだ。彼は「福島第一原発の100キロ圏内で癌の発生率が今後10年間で33%上昇し、10万人単位のがん患者が出る」と予告し、「日本政府は福島原発事故の影響をごまかすために福島から放射性物質を日本全国に輸送している」と主張した。

 バズビーの正体が暴かれたのは、高価なサプリメントを売っていることが明らかになってからだ。彼は放射線の影響から日本人を保護すると称して5800円のミネラルサプリや10800円の食品検査を売り込んでいる。

 彼を日本に招いてかつぎ回った岩上安身氏は、その後も横浜で福島から飛んできたストロンチウムが見つかったという誤報を流して批判を浴びた。極めつけは、12月4日に彼がツイッターで放ったこの「スクープ」である。

 お待たせしました。この二週間あまり、議論にもなっていた、福島の新生児の中から、先天的な異常を抱えて生まれて来たケースについてスペシャルリポート&インタビューします。スクープです。 賛否はあるでしょうが、勇気あるカムアウトした当事者には温かいエールをお送りください。

 言うまでもないが、先天性異常は一定の確率で生まれてくる。ある奇形児が原発事故の放射線によるものかどうかは、疫学調査でその地域の奇形児の発生率が有意に高いことが証明されない限り分からない。

 さすがにこの「スクープ」には多くの人々から「福島県人を差別する事実誤認だ」と批判が殺到し、岩上氏はこのツイートを削除して謝罪した。

 福島第一原発事故は、従来は起こりえないとされてきた炉心溶融が起こったという点では国や電力会社の安全神話を崩壊させたが、炉心溶融が起こると数万人が放射線で死亡するという危険神話も崩壊した。放射能による人的被害は、今後とも考えられない。

 それに気づかないでいつまでも大騒ぎしてデマを流すメディアが、被災者の帰宅を妨げ、風評被害を拡大して2次災害を作り出しているのだ。

 今年はそろそろ頭を冷やして、現実を客観的に見てはどうだろうか。政府はこういうデマに惑わされないで、科学的な根拠にもとづいて被災者を帰宅させ、原状回復を急ぐべきである。

(JB Press   日本再生)
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