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2011-02-17(Thu)

増強する中国軍のステルスな実力

中国軍の脅威は見せ掛けか、本物か——その真の力をアメリカは読み違えている。急速な軍備強化は包括的な戦略の一部にすぎない

 中国が世界に「力こぶ」を見せつけている。昨年末にアメリカの空母を標的にでき、米軍の戦術的優位を揺るがす対艦弾道ミサイル「東風21D」が配備目前と報じられ、1月初めにはレーダーに捕捉されにくいステルス戦闘機「殲20」の試作機の写真がネットに出回った。

 人民解放軍の脅威は見せ掛けだけなのか、本物なのか──アメリカの安全保障関係者の間では論争が起きている。台湾から状況を見守ってきた軍事アナリストは、一連の噂によって、アメリカの軍事戦略を撹乱するという中国の主たる目標は達成されたと言う。

「ワシントンの戦略立案者に対しては、心理的に極めて有効な抑止力になった」と、かつて台湾国防部の副部長(副国防相)を務めた林中ビン(リン・チョンビン)淡江大学国際情勢・戦略研究所教授は言う。「中国は今後何もする必要がない。(最新鋭兵器開発の)発表は、既に台湾海峡周辺のアメリカの戦略を大混乱させている」

 もちろん全面的な戦争に突入したとき、中国がアメリカを倒せると考える人間はいない。アメリカは国防支出でも戦争の経験や技術でも、中国のずっと上に位置する。世界で唯一の超大国アメリカと「超新興国」の中国が衝突しても、力の差は歴然としているはずだ。

 だが林らアジア軍事専門家は、中国の急速な軍備増強によって、アメリカは軍事力の要の1つである空母打撃群の弱点を露呈したと指摘する。

 今後東アジアでいざこざが発生した場合、中国はアメリカの空母打撃群を寄せ付けないか、到着を遅らせるだけの軍事力を既に獲得した。このためアメリカの軍事戦略立案者は、中台の緊張が再燃した場合の対応を迫られている。

西太平洋に築く「万里の長城」

 対艦弾道ミサイルだけではない。中国は07年に気象衛星をミサイルで破壊して、衛星攻撃能力があることを世界に知らしめた。中国が誇るアジア最大の潜水艦隊は今も拡大しており、再生中の旧ソ連製中型空母の運用開始がささやかれている。

 そこに次世代ステルス戦闘機の配備が現実的になってきたことで、警戒感は高まっている。「中国は西太平洋に新たな『万里の長城』を築きつつある。それなのにオバマ政権は防衛上の対応をほとんど何もしていない」と、国際評価戦略センターのアジア軍事専門家リチャード・フィッシャーは指摘する。

 中国の軍拡を重大な脅威と見なさない専門家もいる。対艦弾道ミサイルはまだ技術的な課題があるし、命中精度のカギとなる軍事衛星を攻撃するなど対抗手段はあるというのだ。

 しかし基本的な流れとしては、「東アジアでも宇宙でも(アメリカが)優位を維持するのは難しい」と、林は言う。重要なのは新型兵器の実戦力ではなく、中国の軍備増強がアメリカの戦略的心理に影響を与えるかどうか。その意味では、答えは既に「イエス」と出ている。

 米政府関係者は口先では強気な発言を続けているが、米軍が東アジアから徐々に撤退しているのは事実だと、林は指摘する。「アメリカは国内で経済、社会、政治の問題を抱えており、国防予算は減っている。表向きの発言は変わらなくても、もはや台湾海峡周辺への介入は保証しない。アメリカの軍事戦略関係者の本音は明らかだ」

 中国の軍備増強のペースは、アメリカの予想をはるかに上回っていたようだ。「(軍備強化は)数十年かけて進められてきた。アメリカは人民解放軍の活動を過小評価する傾向があるが、中国が伝統的に『隠すこと』を戦略としてきたことを考えれば、無理もない」と林は言う。

 アメリカは過去に2回、中国がひそかに進めてきた軍事開発に仰天させられた。1964年の核実験と昨年の深海有人潜水艇の潜水成功だ(最終的には水深7000メートルまで潜水する能力があるという)。

アメリカが読み間違えた孫子の思想

 相次ぐ軍備増強の背景にあるのは、96年の屈辱を繰り返さないという中国指導部の決意だとされる。台湾総統選挙を前に中国が台湾海峡で軍事演習を強行したところ、米海軍が空母戦闘群を送り込み、中国は演習の中止を余儀なくされた。

「軍拡計画は80年代からあったが、96年以降はアメリカの空母に対抗することを最重視するべきだと(中国指導部は)気が付いた」と林は指摘する。「その成果がいま表れつつある」

 アメリカの専門家は文化的な偏見から、中国と人民解放軍の力を読み誤ることが多かった。「中国の姿勢の根底にあるのは、(近代戦争論の父)クラウゼビッツではなく孫子だ」と林は言う。「すぐさま武力に訴えるのではなく、武力以外を軍事戦略の一環として利用する」

 アメリカによる「読み間違い」の一例が、孫子の兵法書に出てくる「兵は詭道(きどう)なり」の解釈だ。アメリカでは一般に「あらゆる戦争の基本は(敵を)欺くことだ」と訳されているが、より正確には「戦争の本質は、敵を戸惑わせることだ」という意味がある。敵を欺くことは、その手段の1つにすぎない。

 中国は戦争を起こさなくても、軍事力を含む幅広い手段を通じてアメリカを戸惑わせて、見事アメリカに肩を並べるようになる。欧米の軍事専門家は中国のこうした包括的な戦略を分かっていない。

 結果的に中国は、1発のミサイルも発射せずに太平洋の影響圏からアメリカを追い出すと、林はみている。「アメリカは戦わずして撤退していくだろう。だが中国はそれを軍事的手段によってではなく、経済や外交の分野で実現する。中国政府の実に抜け目ない計画だ」

 2025年か早ければ2020年までに、中国は東アジアか少なくとも西太平洋で事実上の支配権を確立するかもしれない。ただその状況を周辺国が歓迎できるかどうかは分からない。

(Newsweek  ワールドから)
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